さらば、ビル・ゲイツ

Appleスティーブ・ジョブズは好きな人が多いと思うけれど、ジョブズとは反対にどちらかと言えばコンピュータ業界の非難とねたみを一身に背負ってしまっているような男、Appleのカンファレンスで映像が出るだけで嘲笑とブーイングがでる程さげすまれている男、ビル・ゲイツ。そんな彼も7月、ついにマイクロソフトの経営の第一線から退くらしい。

一代で巨大なソフトウエア会社を創り上げたが、なりふり構わぬその商売のやり方に、あまり好意的な評価を得ていない様に思う。だが、巨大なソフトウエア会社のトップとして事業を遂行し、会社を維持していかなくちゃならない立場として、必死に商売をするのはある意味当然のことだと思う。幼少の頃からお金に困ることは無かった彼にとって、「金もうけ」に対する執着心の原動力は何なんだろうか、そのあたりも興味があるところだ。

そんなわけで、私はオープンソース多くの方達とは違い、彼がすきだ。

  • まず、「オタク」であること。洗練されたビジネスマンのようなジョブズや、セクハラで訴えられるほどぎらついたオラクルのラリー・エリソンはオタクでもハッカーでも無いが、ゲイツは明らかに私と同じ「オタク」だ。Microsoftのカンファレンスで寝癖のついた頭で基調講演したり、最近は違うけどやたらでかい眼鏡を不器用にかけたそのセンス。それにあんなに大金持ちになって、今の奥様にプロポーズしたのに、なかなかOKがもらえなかったこともなかなか可愛いオタクぶりだ。
  • それにゲイツプログラマーだ。無論、UNIXを書いたビル・ジョイや、MAC OSを書いたウォズニアックのような、高尚なハッカーではなく、どちらかと言うと力業的なプログラマ(だったと思う)だが、プログラムなんて1行も書いたことない連中とは大違いだ。プログラムを書いて初めてコンピューターについて語る権利があると思う。
  • そして時代の先見性を持っていた。まだ誰もそんなことを想像すらしない時に、「家庭にコンピュータが置かれる事」を願っていた。コンピューターの世界の中心がハードからソフトに移行するまさにその先端においてそれを予見し、IBMを出し抜き、巨大なソフトウエア帝国を築き上げた。無論それは時代の流れの必然性でもあったのだろうけれど、最も重要な役回りを果たした事実は否定できない。
  • また、決断と行動力に満ちている。MicrosoftがInternetの波に乗り遅れそうになったとき、ゲイツが強権を発令して、会社の全てのリソースをInternetの方向に集中し、危機を乗り切ったことは彼の判断と行動力を象徴する出来事だと思う。失敗に気がついたらすぐに悔い改めて動く、この辺のダイナミックさがMicrosoftの企業としての力だと思う。
  • それから、とてもしたたかだ。Microsoftの最大の危機は、米国政府によって分割されそうになったことだが、ゲイツは辛抱強く、効果的にこれに対処し、ついに乗り切った。法廷での彼の態度は、専門家の目から見ても、「一番うまい」対応だったと言われている。さらにゲイツは事業が成功するまで、簡単にはやめない。XBoxや、WindowsMobileが、いやWindows自体がその例だ。それに、どんな場合にも自分の流儀、やり方を押しつけてくるイヤな奴だ。
  • まだまだある。ゲイツはに常に開発者に向き合っていた。サポートの質が良くないとジョークを使ってこき下ろされてきているが、Microsoft程開発者の取り込みに腐心し、開発者ネットワークを組織し、一生かかっても読み切れないほどの多くの情報を提供してきた会社は無いと思う。無論それは自社の商売のためではあるのだが。OracleなんかほとんどMicrosoftのこのやり方をまねている。
  • 最後は(お金を)持つものとしての良識をわきまえている。これからは慈善事業を中心に活動するとのことだが、給与0円でCEOをやっているジョブズよりも生き方として偉いと思う。だから、エリザベス女王からも表彰された。歳を取って、ますます血気盛んだ。

いやー、こうして列挙してみると、やはり並大抵の人じゃないですね。もう一度ゲイツの伝記を読みたくなってきました。

追伸
ビル・ゲイツに関する本といえば、やはり「Hard Drive」だが、すでに日本語版は絶版となっているようだ。私は過去に一度読んでいるのですが、再び読みたくなったので、amazonで古本を買ってみた。同じ本を二回買うなんて、何とも間抜けな話だが、読んでみるとなかなか面白い。これを機会に、彼のことが見直されると良いな。

ビル・ゲイツ―巨大ソフトウェア帝国を築いた男

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